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2021年5月18日

日本で高まる気候変動リスク開示強化への声

時代の流れは、気候変動リスクの強制開示へと向かっています。

2020年9月、ニュージーランド政府は、気候変動リスク報告のもはや世界基準となりつつある「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言を踏まえ、国内の大企業に「コンプライ・オア・エクスプレイン(遵守するか、あるいは説明せよ)」の原則に基づいて義務付けることを発表しました。

英国政府はさらに一歩進んで、2025年までに経済界全体に対して提言を遵守する法的義務を課すことを目指しています。

欧州連合も同様の動きを見せており、TCFD報告書作成の動きが加速するにつれて、グローバル企業に対して気候変動リスク情報開示の強化を求める政府や投資家からの圧力はますます強くなっています。企業セクターは、この動きに備えなければなりません。

日本における気候変動リスク情報開示

ごく近い将来、日本もこうなることは容易に想像できます。菅首相は2020年10月、パリ協定の目標に沿って、温室効果ガスの排出量を2050年までに「実質ゼロ」にすることを目指すと宣言しました。

首相は、TCFD基準の世界レベルでの適用も支持しており、日本政府として「TCFDが世界中で活用され拡大するように支援する」と言明しています。

この政府の支援は、日本の企業や金融機関が、TCFDへの支援に際してとった迅速な行動に即するものです。提言を採用した企業には、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などの最も強い影響力を持つ法人も含まれ、賛同企業は300社以上にのぼります。日本は、世界でも最も賛同企業が多い国です。

気候変動は、企業が取り組むべき課題としても引き続き注目されています。この動きは、日本のESG(環境・社会・ガバナンス)投資ブームや、2020年にみずほフィナンシャルグループに提出された、日本初の気候変動関連の株主提案への強い支持にも表れています。

伊藤忠商事、三井物産、三菱商事などの商社は、海外の既存事業への参画は継続していますが、新規の石炭火力発電からは撤退しつつあり、石炭はもはや収益性の高い資源ではないという認識が広まっています。

こうした事情を背景とし、日本企業には政府により強制され、投資家が行動を起こすより前に、任意にTCFDの提言に沿って報告書を提出することが事業上強い意味を持つ場合があります

TCFD報告書が重要な理由

TCFDは、企業がさらされている気候関連のリスクと機会を評価し、その管理状況を報告するための主要報告基準となりつつあります。TCFDを採用することで、企業は既存の財務情報開示義務をより効果的に果たすことができます。一方、投資家は、気候変動が投資先企業ポートフォリオに与える重要な財務上の影響を把握したうえで、十分な情報に基づいて投資先を決定することができます。そのため、TCFDを枠組みとする開示は、政府と市場にとって共通の期待となっています。

世界に先駆けて、多くの日本企業がTCFDの提言を採用したとはいえ、世界第3位の経済大国である日本には、まだ情報開示を強化する余地がたくさん残っています。2021年6月から改定されるコーポレートガバナンスコードでは、プライム市場上場会社(ほぼ現在の東証第一部上場会社)を対象に、TCFDあるいは同等の枠組みに基づく気候関連財務情報開示が、「遵守するか、あるいは説明せよ」ベースの新たな原則として導入される予定です。

ただちにTCFDへの投資家の期待に応えることは、国際資本に対する日本企業の魅力が維持されるとともに、将来的な企業負担が軽減されることになります。というのも、日本のすべての上場企業の「遵守するか、あるいは説明せよ」原則に、報告基準をベストプラクティスとして組み込むことは、究極的には、すべての大企業に対する法的強制という方向に向かうからです。そしてこれは、日本の経済及び民間企業を気候関連の金融システミックリスクから保護し、あらゆる人の利益につながります。

日本のネットゼロ目標

日本が「今世紀半ばまでに炭素排出量を実質ゼロにする」という意欲的な目標を達成するつもりであるなら、TCFD報告はほんの序章にすぎません。

気候危機の緊急性が認識される中、投資家は企業に対して、パリ協定(世界の平均気温上昇を2℃以下、できれば1.5℃以下に抑えるという目標)に沿った事業戦略を発表し、30年以内に温室効果ガス排出量「実質ゼロ」を達成するための詳細な計画を発表するように圧力をかけています。また、それまでに、パリ協定に基づく短・中期の排出削減が期待されています。

昨年、株主からパリ協定の目標に基づく投資計画の開示を求める株主提案を受けたみずほフィナンシャルグループの例は、企業の気候変動対策への投資家の期待を明確に示すものです。

日本初の気候関連株主提案は、定款変更に必要な3分の2の賛成を得るには至りませんでしたが、35%に及ぶ支持を集め、この提案は市場に強いシグナルを送りました。「Climate Action 100+ ネットゼロ企業ベンチマーク」が示すように、世界の投資家が結束して、気候変動に対する企業の意欲的な取り組みを推進していますが、こうした動きはまだ始まりにすぎません。

TCFD報告書では先頭に立っている日本の経済界ですが、世界中で政府の取り組みが加速し、投資家が明確に意思を示している今こそ、気候に対するアクションを強化すべきです。あらゆる兆候が、最低でもTCFD基準を満たすアクションを速やかに実行する必要があることを示しています。その次の段階は、炭素排出の具体的な削減です。